意匠職人
○福岡市 在住 ○54歳 ○1-un Design/意匠職人/町谷一成建築デザイン事務所 代表 ○日隈小学校・南部中学校 ・日田林工出身
建築家を目指す
「幼少期はこんにゃく君と呼ばれるほどふにゃふにゃな男の子でした。そんな僕に母が少林寺を習わせてくれて高校生まで続けましたが、痛いのが嫌で試合などでは必死に避けることには長けていました(笑)。
図工が得意で小学校では毎年金賞受賞。中学に入ると、ファッションに興味を持ち、洋服を作ったり、週末には知り合いの美容室に通いアルバイトをして、営業時間が終わるとセットの練習などもしていたので文金高島田などもお手伝い。
林工電気科時代も週末にはずっと通っていたので、高校卒業後は美容師になるのかなと思っていたのですが、今まで何も言わなかった父親に大反対されたこともあり、東京で電気工事系の会社へ就職。昼間は現場、夜は会社の設計部でお店やイベント会場の照明の設計というハードな日々を送っていました。
ある時『新建築』という雑誌に載る物件の電気設計を任され、その物件の女性建築士に恋をしました(笑)。有名雑誌に載るような物件の建築士の彼女に僕も肩を並べようと、働きながら夜間の学校に通い建築士を目指しました。実際は学校を卒業する頃には彼女は海外へ行ってしまうのですが、僕自身は建築士の資格を取る前に建築会社の設計部へ転職。
時代はバブル。お給料も良かったし会社のカードで1日20万まで使うなんていう日々を送っていましたが、ある日突然カードの支払いは自分でねということになり、一夜にして数百万の借金ができ、会社を辞めることにしました。その時お世話になっていた建築事務所の方に声をかけてもらい、高橋昌司さんという有名なインテリアデザイナーの自宅の設計のお手伝いに行きました。するとそこの飼い犬に懐かれ(笑)、そこを気に入ってもらえたのか高橋さんの事務所でお世話になることになったんです。借金もあったので、昼間はインテリア事務所、夜はいろんな有名なレストランやクラブなどを紹介してもらいバイト。すごい経験でした。
その数年後、海外へ行った彼女に会えたらと淡い期待を胸にロンドンとパリへ。もちろん彼女には会えませんでしたが(笑)、東京でJ-Menʼs TOKYOというクラブの内装を手がけた繋がりから、現地のギャラリーのプロデュースなど、いくつかの仕事を経験し帰国。東京で独立しました。グラフィックデザイナーの彼女が出来るとグラフィックにも興味を持ち、内装や設計はもちろん、広告や写真など仕事は多岐にわたりました。
意匠職人としての仕事
30歳で日田に帰省。僕のコンセプトワークでもある土に還る素材で造る家『LOCAL HOUSE』がスタート。第一号は自然素材で家を建てたいと思っていた弟の家でした。
日田を拠点に地産地消の住宅などを手がける中、福岡のイムズ内のランドスケープデザインを担当。色んな職人さんと共に手がけたプロジェクトを見てイムズの会長さんから『意匠職人』という肩書きをもらい、そこからずっと僕は意匠職人としてやってきました。
日田で出会ったプロデューサーの江副直樹さんとは別府の山田別荘のリノベーションやちくご計画などの地域の活性化プロジェクトに空間プロデューサーとして多く携わりました。その後、設計士である今の奥さんからオランダでこどもカフェを開催するプロジェクトに呼んでもらったことがきっかけで結婚。拠点を福岡へ。建築士同志お互いこだわりが強く、家を建てたいと思ったこともありましたが、たぶん一生意見は合わないだろうと断念しました(笑)。
僕自身、バイト時代にいろんな環境でお客さんを観察してきたことが影響して、どんなことが求められているか、どうすればもっとお客さんにとって快適なのか…。それが解っているからこそクライアントさんの思いを汲んで、掘り下げて仕事をしていると思っています。
今回日田の豆田町にオープンするお店『BOWL』の内装デザインを手がけました。2000本の日田杉の角材を一本ずつ天井に留めているのですが、一本一本現場で位置を調整して配置しています。もちろん3Dの図面に起こしてはいるのですが、どんな現場でも職人さんや技術者さんに託すだけではなく、現場で細かいところまで造りこんでこそが僕のスタイル。自分の感覚や塩梅があるので。だからこそ自分の作品のようなものなんです。
今後は『LOCAL HOUSE』を実際に体験できる宿泊施設、体験型のオープンハウスをしたいなと思っています。実際に泊まってもらえれば素材の良さなどをもっと体感できます。今後もっと広げていきたいプロジェクトです。やりたいことは山ほどありますが、お金儲けじゃないですね。子どもの頃からそうだったように、好きなことにただただ向き合いたい。そして仕事にも女性にも一生懸命に(笑)。
Vol.61 UNDER THE SAME SKY
Photo by Cotaro Ishii
Text by Yu Anai