

以前に福岡で高齢のご婦人と談笑していたところ、僕の出身が日田であることを告げるとご婦人は「日田と言えばあれだね。あれ・・・」そう思い出せずに詰まっていたので僕は「日田でしたら焼きそばや蕎麦饅頭や鮎とか梨とかですかね?」そう会話のトスを上げるとご婦人は「違う違う、日田と言えば丸芳露よ」そう言うので「丸芳露と言えば普通は佐賀を上げるのに何故に日田で丸芳露なのですか?」僕はそう訊ねた。するとご婦人は微笑みながら「日田のね、とらやさんの丸芳露が本当に美味しいのよ」そんな会話をふと思い出した。
僕はそれで中本町に在る日田とらやさんへと足を運んだ。新しく建てられた日田とらやさんはシンプルながらもどこか可愛らしさのある建物だ。入口の暖簾には月と雲の様で丸芳露の正面と断面にも見える紋様が描かれている。清潔感のある店内には丸芳露や最中やクッキー等が並べられている。もちろんしっとりとして蜂蜜をたっぷりと使った柔らかい丸芳露も有名だが、最近ではクルミの入った上品な餡の鯛最中も人気だし、女性にはクリームチーズクッキーも人気だ。
この様な御菓子屋さんは自分で食べる分にも美味しいが、人へ贈る分にも最適だ。竹籠に入れて贈れば尚のこと風格と可愛らしさが相まって相手方への心配りを充分に感じられる。そしてその竹籠を開ければ中から美味しい丸芳露や縁起の良さ気な鯛最中が現れるとなると貰った者はついつい顔がほころぶと言うもの。相手の喜ぶ顔を思い浮かべれば、自然と自分も笑顔が零れる。情けは人の為ならずではないが人を想い贈ると言うことは自分の幸せにも繋がるものだとふと感じた。僕は日田とらやさんで贈答用に丸芳露と鯛最中を買い、それと自分で食べるように鯛最中とクリームチーズクッキーも買った。
ふと思い出した知人の顔に会いたくなったら日田とらやさんの丸芳露を持って行こう。三代続く味と心遣いを携えてふらふらと歩いて。


