
長かった夏が終わり、ようやく朝晩は涼しく感じられるようになりましたね。この時期になると、私は無性に「鯉こく」が食べたくなります。川魚料理は苦手な方もいますが、水郷・日田に生まれ育ったおかげで、私はまったく抵抗がありません。なかでも、父の作る「鯉こく」は大好物でした。
ただし、好きだからといって、豚汁のようにぱくぱく食べてはいけません。鯉の骨は先が二股に分かれていて、とても危険なのです。親からは「鯉の身だけを少しずつ口に入れなさい」「慌てて飲み込んだらだめ」「よく確認して、骨があったら出しなさい」と、しつこく言われたものです。それでも、この味は「鯉こく」でしか味わえない。大好きな私は、どんなに面倒でもあきらめず、慎重に、慎重に食べていました。もちろん、無言で。
そしてラッキーなことに、嫁ぎ先の義父も鯉料理が得意でした。裏庭には池があり、いつも鯉が泳いでいました。義父はお客さまが来ると、裏の池で泳いでいる鯉を自ら捕まえ、手際よく料理して、もてなしてくれるのです。大きなたらいの中で鯉が元気に跳ねる音、包丁の音、勢いよく流れる水の音——。今でも鮮明に覚えています。
「お〜い、氷持ってこ〜い」と義父の声がする頃には、「鯉のあらい」、いわゆる鯉の刺身の出来上がり。氷水でよく締めた身はコリコリと食感がよく、ちょうど熟れてきた柚子の果汁で作った酢味噌でいただきます。本当に美味。もう義父はいませんし、池もありません。新鮮さが命の「鯉のあらい」を自宅で食べるのは難しいですが、この記憶を頼りに、鯉料理でのもてなしを続けていきたいものです。


