
10月より1ヶ月間開催された日田藝術祭。その企画のひとつとして行われた一筆書きアーティスト・NANDEさんのライブペイントを目当てにクンチョウ酒造を訪ねた。会場に入ってまず目を奪われたのは大きく展示された酒樽だ。長年使われてきた酒樽の杉の木肌には職人の手仕事と蔵の歴史が静かに刻まれ、眺めているだけで物語が浮かぶようだった。
NANDEさんの紹介の後、ライブペイントが開始され、ポンプの先にブラシがついたものが。なんだろう?と思い見ていると、酒樽に触れた瞬間にふわりと墨の香りが広がる。その香りとともに伸びていく一筆書きの線は迷いのない強さと人の温度を帯び、蔵の静けさにゆるやかに溶け込んでいった。
NANDEさんが呼吸するように筆を運ぶ姿に来場者は静かに引き寄せられ、線が生まれるたび場の空気がかすかに震えるのを感じた。終盤にはスタンプアーティストの小山田将監さんも加わり、二人によるアートトークが行われた。表現の背景や創作の内側に触れる語らいは温かく、歴史ある空間に新たな息吹を運ぶ豊かな時間となった。二人の言葉を聞きながら、伝統と現代の表現がひとつの場で重なり合う瞬間に立ち会えることの贅沢さを改めて実感した。酒蔵という土地の記憶がアートに寄り添うことで生まれ、訪れた人の心に静かな余韻を残し続けるのだった。


