
後ろのトランクの入り口には、母の車椅子を積み下ろしした時についた小さな傷があり、亡き父や母を乗せて出かけた日々や、エホントの三人であちこち出かけて笑った時間、10年間、私の生活をまるごと支えてくれた車を手放す前の日
二度と戻れない過去の思い出をなでるように感謝を込めて車を拭きあげていた。
『たいせつなこと』
マーガレット・ワイズ・ブラウン/作 レナード・ワイスガード/絵 うちだややこ/訳(フレーベル館)
1949年にアメリカで生まれ、今も読みつがれている絵本です。身の回りのものたちとひとつひとつ向き合いながら、「たいせつなことってなんだろう」と、やさしく、静かに語りかけてくれます。
内田也哉子さんの翻訳で話題になったとき、実はその頃の私は、この言葉をあまり深く受け取れずにいました。
あなたにとってたいせつなのは
“あなたがあなたであること”
この10年間、これで本当に良かったのだろうかと、反省もたくさんあって、このところ、後ろ向きな気持ちにもなっていたけど、丁寧に車を拭いていると、これで良かったのだと思えてきた。
大切なのは、私が私らしくいること。
この絵本の言葉と
そしてお世話になった車に最後に励まされたような気がした。
今年もエホントのコラムを読んでくださり、ありがとうございました。
どうか来る年も、みなさまの毎日に、やさしい福がそっと訪れますように。


