

あの肌を突き刺すような寒さはどこへやら。
気がつけば新緑の季節が始まり、山々は淡い桃色に染まり始める。
町の中では、別れと新しい年度への準備が静かに進んでいく三月だ。
今から十四年前。
高校三年生だった僕にとっての三月は、
日田での生活のカウントダウンが始まる時間だった。
卒業式を終えて、
会っておきたい友人の顔が次々と浮かぶ。
進学先に持っていく荷物の準備。
家族との時間。
考えれば考えるほどに、この地で過ごした時間の長さを実感し、
切ない気持ちが胸の奥に広がっていった。
それから、とにかく人に会った。
朝から晩まで、時間の許す限り会いに行った。
そこまで親しくなかった人とも、できるだけ顔を合わせた。
そして、別れ際には決まって「また会おうね」と伝えた。
その言葉に、確かな根拠なんて無かったけれど、
それでも言わずにはいられなかった。
そして、気がつけば出発の日。
前の夜、眠らずに準備を頑張ってみたけれど、
結局荷造りは終わらなかった。
それでもその分、悔いなく日田を離れられた気がしている。
あれから十四年。
今になって、あの三月の過ごし方は正しかったと思える。
なぜなら、それから未だに会えていない友人もいるからだ。
“いつでも会える”は、
決して当たり前ではない。
これまでの出会いを、
大切にする一か月を過ごしてほしい。


