「反面教師」という言葉があるけれど、私の“なんでもやりたがる”貪欲さゆえの失敗を見て、息子は自然と “ほどほど”を身につけたのだろうか。最近では、子どもから学ぶことも多い。もしかしたら、親は手本ではなく、たくさんの失敗を見せることの方が大切なのかもしれない。
『ぼくのこえがきこえますか』田島征三
童心社(日本)、訳林出版社(中国)、四季節出版社(韓国)による共同出版。
憎しみや復讐が、どれほど虚しいものか。戦争で死んだぼくの声がまっすぐに聞こえてきます。
亡くなった父が手続きをしかけていた「戦没者等の遺族に対する特別弔慰金」の書類が出てきた。
太平洋戦争が始まった翌々日に生まれた父には、ビルマで戦死した父親の記憶はなく、その後母親も病気で亡くなったので、両親を早くに失った父には、「反面教師」となる存在がいなかったせいか、どこか独特な価値観を持っていたが、最近になって、年を重ねた私も、そんな父の気持ちが少しだけわかるようになってきた。というより、私自身、けっこう偏屈になってきたのかもしれない。
親が子どもに自分の失敗を見せることができるというのは、幸せなことなのだと思う。祖父もきっと、父にたくさんの失敗を見せたかっただろうし、伝えたかったことも、残したかったこともきっとあったはずだ。
書類を手にしたとき、私にはそれが祖父からの手紙のように思えた。