
その昔、福岡市に住んでいた頃、帰省したら豆田町にあった「宇治山哲平美術館」によく足を運んだ。元々大好きな画家だったが、宇治山さんのこと(表現の変遷や想い、画材や画因など)を知るほどさらに好きになっていった。知らなかったことを知る〝発見〟は実に素晴らしい。脳や感性、いろんなものを活性させてくれて、日頃見ているこの世界も一変させてくれる。しかし、もう豆田町に宇治山哲平美術館はない。日田市は美術館がない町になってしまった。だから、天領資料館をお借りして小さな美術館をこしらえようと「みんなの美術館」と題したこの展覧会を企画したのだが、それからいろんなものが動きはじめ、いろんな人が声を掛けてくれるようになり、寄贈してくれる方まで現れてくれた。
その中に、由布院ドルドーニュ美術館の裏館長の存在があった。
彼女は、由布院駅構内のアートホールの企画をするなど、由布院の芸術シーンを牽引してきた方だが、生前の宇治山さんと交流もあり、美術館にも宇治山哲平のコーナーを設けているほど、宇治山さんのことを敬愛している方でもある。そんな裏さんから、美術館にある宇治山作品も(宇治山さんの生まれ故郷でもある)日田で見れるように貸出ししてもいいとお声掛けいただいていたのだ。とても嬉しく、大きな節目に実現できたらと思っていた。そして没後40年の今年、ドルドーニュ美術館にある宇治山作品のおかげで、間違いなく今までにない「みんなの宇治山哲平展」が実現できた。
また、タイトルの「沸々たる静謐」は、宇治山さんが生前、西日本新聞に連載していた聞き書きのタイトル。この記事も裏館長が手渡してくれて知ったものだ。幼少期から晩年までの歴史がよく分かるこの記事のおかげで、展覧会のイメージが固まった。人柄が滲み出るものにしたいと心に決めた。
そして気付くのは、絵画の世界ではシリアスな題材も多い中、宇治山さんはいたって朗らかだということ。自然や愛、何より〝絵を描くこと〟自体を大切にしていた。どんな世の中であっても、宇治山さんのように朗らかに、光を見ていきたい。〝それなら誰にでもできるから〟って宇治山さんの声が聞こえてきそうだ。


