
今から何十年も昔のこと。高校を卒業し、日田を離れ、初めてのひとり暮らしを始めた。春休みにバイトしていた日田の老舗うどん屋の店長が、使わなくなった炊飯用のガス釜をプレゼントしてくれた。「ガスで炊いたご飯は美味しいぞ」と背中を押されるように持たされたその釜が、新生活の相棒になった。
引越し先ではガス口を二口にしてもらい、コンロとガス釜を並べた。説明書もない中古のガス炊飯器。最初は水加減も分からず戸惑ったが、意外と簡単!ご飯が炊けると勝手にガスが止まる仕組みに関心。保温もなく、少し不便だったけど、その分どこか誇らしかったのを覚えている。
友達が遊びに来ると、「ガスで炊くの?」と最初は驚かれたが、やがて「ここのご飯は美味しい」と言って集まるようになった。おかずは持ち寄り、お米は実家から。質素だけれど、にぎやかで温かい時間だった。ご飯さえあれば幸せ。本当にそうだった。笑
それから年月が経ち、あのガス釜とはお別れ、普通に炊飯器で暮らす日々。それでも私は、火で炊くご飯の美味しさが好きで、結婚してからは相方の勧めもあって萬古焼の釜を購入。通称「ぶんぶくちゃがま」と呼ぶうちの窯は、電気で炊いたごはんとは違う独特のおいしさを子どもたちにも教えてくれた。
この春、ひとり暮らしを始めた次男がなんと同じ釜の購入を希望。今時の男子大学生が釜でご飯を炊くの?と、少し意外だったが、ちゃんと美味しく炊けているらしい。おいしいごはんとともに、新しい環境で出会った仲間とわいわい食卓を囲める時間が次男にも来るといいなと思う。
あの頃、親にお米を送ってもらっていたことを思い出しながら、今度は私が送ってみようと思う。


